リチャード・ジュエル : 特集
【良作保証】次に見るべきは、この“劇的な実話” 国家にハメられ
爆弾犯にされた主人公と、彼を信じる無謀な弁護士が巨大な相手に挑む
事件はあなたにも起こりうる カタルシス溢れる、今見るべきサスペンス!
1月17日から公開を迎える「リチャード・ジュエル」は、1996年に起きた米アトランタ爆破事件が題材だ。英雄的行動により人々の命を救ったにもかかわらず、容疑者にされてしまった“世界一不幸な男”と、彼を救うために立ちあがった“世界一無謀な弁護士”による実話を描き出す。
実際に鑑賞し、物語展開の巧みさ、現代へ突き刺さるテーマ、キャストの熱演、スタッフの熱量に目を見張った。月並みな言い方だが、この映画が、良作であることを保証しよう。
【実話】 爆破物を発見し、数1000人の命を救ったのに…自分が容疑者に!?
世界一不幸な警備員と、世界一無謀な弁護士が“巨大権力”に挑む――
警備員のリチャード・ジュエルは、公園のベンチの下に、不審なバッグが置かれているのを見つける。周囲にいた捜査官に連絡し詳細を確認すると、なんと中身は殺傷能力の高いパイプ爆弾だった。そのとき公園は、コンサートを見に来た数1000人の一般客でごった返していた……。
・ヒーローから一転、“世界の敵”に… 警備員リチャード・ジュエルとは何者か
リチャードはどこにでもいる、いたって普通の男性だ。母親と2人暮らしで、正義感が強く、警官などの“法執行官”への強いあこがれを持ち、自分の使命は人々を助けることだと信じている。
96年7月27日、オリンピック公園でのコンサートを警備していたリチャードは、爆弾を見つけ、大勢の命を救った。英雄視される一方で、FBIは彼を事件の容疑者と断定し、強引な捜査を始めていた。さらに、漏洩した情報を地元メディアが実名報道し、英雄から一転、世紀の犯罪者として世間の耳目を集めることになる……。
・リチャードを信じ、“巨大権力”に挑む… 弁護士ワトソン・ブライアントとは何者か
口は悪いが信念は曲げない弁護士ワトソン・ブライアント。リチャードとの出会いは、86年にまでさかのぼる。2人はスニッカーズと正義感をきっかけに親しくなり、友情を育んだ。それから10年が経ち、テレビでリチャードの活躍を知ったワトソンは、「よくやった」と目を細める。
しかし彼からの助けの電話を受け、ワトソンは無実を信じ弁護を担当することに。2人の友情とバディ感は、ひたすら爽快感があり、見ていて応援したくなる。彼らは図らずもFBIやメディアの抱える問題点を明らかにしながら、やがて感動的な結末へと突き進んでいく。
【今だからこそ、絶対に見るべき一作】 これは、あなたにも起こり得る物語
巨匠クリント・イーストウッドが放つ問題作 現代社会に潜む落とし穴とは
メガホンをとったのは、「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」「15時17分、パリ行き」「運び屋」など、実話映画で世に問いかけ続けてきたクリント・イーストウッド監督。“常に新作が最高傑作”と称される同監督が今回描くのは、SNS社会への警鐘だ。
FBIによる無根拠かつ強引な捜査はもちろんだが、リチャードを窮地に追い込むのは、むしろメディアによる報道である。“無実”にもかかわらず“犯人である”かのように報道され、“虚偽が世間で広く共有”され“事実”と化していく。前日まで「英雄だ」と称揚していたテレビコメンテーターが、今日はあっさり「怪しいと思っていた」と手のひら返しする。その光景にリチャードたちは、絶望感にくずおれそうになってしまう。
この構図が、マスメディアとSNSによって、センセーショナルな出来事が虚偽だろうが事実だろうが関係なく、爆発的な速度で拡散されてしまう現代社会の負の側面と重なっていく。イーストウッド監督は御年89歳だが、恐るべき時代感覚と言わざるを得ない。
・テーマはSNS社会に直結する、“捏造された真実”が拡散される恐怖 ・監督は…実話映画の“最高傑作”を更新し続けるクリント・イーストウッド ・試写会での満足度は…驚異の92%! ・「今の時代だからこそ見るべき」など自分事化する観客の声また、試写会を実施し、観客にアンケートに答えてもらった(30~40代の男女を中心に49人)。92%の観客が「本作に満足した」と回答しており、その品質は折り紙付きだ。さらに「この時代だからこそ見るべき」という声も多く寄せられ、その理由として「1人の発言や行動がネット等を通じて世界に影響を与える時代だから」(29歳男性・会社員)などがあがった。
印象的だったのは、「あなたにも起こり得る事件?」という設問の回答だった。「強くそう思った。実際に、誤認逮捕されたことがあるから」(40代女性)。この観客は本作を「大満足」と評価しており、さまざまな人々が自分事化して強く没入できる作品である、と示唆してくれた。
【キャストも圧巻】 P・W・ハウザー、S・ロックウェル、K・ベイツ…
賞レースを席巻する、感涙必至の熱演に刮目せよ
イーストウッド監督の創出する世界に、キャスト陣の熱が加わり作品が輝きを放った。ここでは本格化する賞レースでも話題を集めている、その熱演の数々を紹介しよう。
・実母も驚くそっくり度! リチャード役のポール・ウォルター・ハウザー
主演は「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」「ブラック・クランズマン」で独特の存在感を放ったポール・ウォルター・ハウザー。心優しい一方、尊敬を集めたいという下心が透けるリチャードの内面や言動を、絶妙なコントロールで表現しきっている。
当初、リチャード役はジョナ・ヒルが演じる予定だった(ちなみにワトソン役はレオナルド・ディカプリオ)が、諸々の事情で彼らはプロデューサーに専念し、代わりにウォルター・ハウザーが主演に抜擢。実母ボビをはじめ関係者が驚くほどの激似ぶりと好演を見せ、物語に“実直な真実”を付与した。
・アツい一面にグッとくる ワトソン役のサム・ロックウェル
第90回アカデミー賞で助演男優賞に輝いたサム・ロックウェルが、言葉の端々にアツさがにじむ弁護士ワトソン役に。「スリー・ビルボード」「ジョジョ・ラビット」と合わせ、“サム・ロックウェル三部作”とも呼べる出色の芝居を見せている。
さらに「バカどもを打ち負かそう」など、セリフがとにかく良い。なぜワトソンがリチャードを信じるのか、なぜリチャードがワトソンを頼るのか、その理由に感涙もののドラマが隠れているので注視してもらいたい。なお試写会でのアンケート設問「誰が一番いい演技をしていた?」では、42.1%の観客がロックウェルと回答していた(次いでウォルター・ハウザーが36.8%で2位に)。
・見せ場がとにかく感動的 母ボビ役のキャシー・ベイツ
物語に愛をもたらすのは、「ミザリー」「タイタニック」「アバウト・シュミット」などのキャシー・ベイツだ。鑑賞前、筆者は宣伝スタッフから「ベイツの見せ場、泣きますよ」とハードルを上げに上げられていたが、それでもあの“演説”を目撃した時、涙が止まらなかった。第77回ゴールデングローブ賞では、助演女優賞にノミネートされていた。
ほかにもジョン・ハム、オリビア・ワイルドと多士済々。豪華アンサンブルキャストを迎えたイーストウッドが、今を生きる我々観客に投げかけるメッセージを、ぜひとも劇場で目撃してもらいたい。